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「スポーツにはお金がかかる」(上)

「ゲームとリアルサッカーを繋げる」をテーマにお送りする「リアルサカつくの世界」。第6回はスポーツビジネスを研究する江戸川大学准教授・澤井和彦氏にお話を伺った。

リアルサカつくの世界「スポーツにはお金がかかる」

スポーツ施設経営やスポーツビジネスの業界・経済規模・制度などを専門に研究する澤井氏は、東大勤務時代に施設管理者として新興スポーツであるフットサルに積極的に施設を開放するなど、現場のプレーヤーやファンの感覚にも理解のある研究者だ。今回はその澤井氏にスポーツとお金の関係について話を聞いた。

【スポーツにはお金がかかる】
澤井○僕は最近、「スポーツにはお金がかかる」ということを、いろいろなところで強調して言うようにしています。日本ではスポーツでお金を儲けることを嫌う感覚がありますよね。アマチュアリズムもまだ根強い。実際、僕らは学校でお金を払わずにスポーツをしてきてるから、コスト意識に欠けるところがある。僕も体育会系の人間で、自己反省を込めてそう思います。

でも、近代スポーツは規格化された場所や道具や人材を必要とする、非常にコストのかかる活動です。もちろん学校の部活動にも相当なコストがかかっています。税金と教員のボランティアのおかげで一見タダにみえるだけ。とくに教員のボランティアを給与換算したらものすごい額になりますよ。学者的には教員をそこまで駆り立てる権力構造が気になるし、軍司貞則さんの「高校野球『裏』ビジネス」みたいなアングラマネーの世界は、経済学的にはむしろ当然の帰結だと思う。

【強化・普及・ビジネス】
たとえば昨年、朝日新聞の記者がサッカー協会の「親善試合ビジネス」を批判した記事がありました。大事な公式戦の前の日本代表の親善試合を、強化のためではなくビジネスのための試合だとして、協会が儲け主義に走っていると批判した記事です。

参照:「親善試合ビジネス、転換点 サッカー日本代表」

これは一理あるようにみえるけど、単純すぎて誤解を招く内容だと思う。

たとえば、元日本サッカー協会ゼネラルセクレタリーの平田竹男さんが、早稲田大学でやっている講義をまとめた「トップスポーツビジネスの最前線」の中で、トリプルミッションモデルというのを提示しています。サッカー協会には「強化」「普及」「ビジネス」の3つのミッションがあって、「強化」のためには、いい選手が出てくるための土壌になる「普及」が必要だし、一方でファン層、競技者層を拡大する「普及」のためには、その競技が強く魅力的であること、つまり「強化」が必要という相関関係がある。そして普及にも強化にもお金がかかる。たいていの競技団体はここで税金に依存するんだけど、サッカー協会は自分でビジネスをすることにした。ワールドカップで勝つためにです。「ビジネス」が成功するためにはその競技が強くて人気のあるスポーツであること、つまり「強化」と「普及」が必要です。というわけで「強化」と「普及」と「ビジネス」という3つのミッションを同時に達成していくのが競技団体の役割だというわけです。

たしかに、90年代の後半以降、日本代表がアジアのトップチームになって、ワールドカップの常連になった要因として、サッカー協会のビジネス的な成功は無視できないでしょう。テレビ局の都合で試合日程や対戦相手が決められることを批判するのは簡単だけど、お金がなければ強化試合を組むこともできなくなる。競技団体にとって興行は主力商品だから、興行ビジネスを財政の柱にするのは当然です。必要なのは「儲け主義」などというナイーブな批判ではなく、短期的なビジネスに走りすぎて中長期的な利益を損なう可能性はないかというような、ビジネス戦略に関する冷静な議論だと思います。

【サッカー協会の姿勢にポジティブな評価を】
アマチュアスポーツの活動は多くのばあい税金で支えられていますが、すべての競技団体がサッカー協会のようなビジネスができるわけではないし、その必要もないと思います。サッカー協会には環境や人材など、ビジネスに乗り出す条件が整っていたということでしょう。

ただ、ご存知のように近年は政府も自治体も財政状況が非常に厳しくなっています。これが何を意味するのかというと、再分配の予算が限られてくるなかで、スポーツが福祉や医療、教育、治安あるいは雇用といった、より優先度の高いアイテムとのトレードオフにさらされやすくなっているということです。

たとえば昨年、大阪府の橋下知事が「財政再建プログラム」で1,100億円の予算削減を掲げた時には、当初大相撲大阪場所の会場であった「大阪府立体育館」や、フィギュアスケートの高橋大輔選手がホームリンクにしていた「臨海スポーツセンター」の廃止が検討されました。結局、両者とも当面の存続が決まりましたが、「臨海スポーツセンター存続の会」のホームページには、「福祉や教育予算が削られるなか、なぜ一部のスケーターのためにセンターを維持しなければならないのか」というような厳しい意見も寄せられています。この会の活動自体は市民運動としてある意味健全かもしれませんが、寄せられた意見もまた妥当なものです。

あるいは、北京オリンピックから帰国した日本代表選手団の団長さんは、ロンドンで北京以上のメダルを獲得するためには4年間で現在の3倍の240億円欲しいと言ったそうです。まあ彼の立場としては当然の発言なのでしょう。でも、現在の社会状況、財政状況を考えたら、果してどうでしょうか。

急病人が病院をたらいまわされて亡くなったり、雇い止めにあってネットカフェに寝泊まりする若者がうようよいる時代に、果して日本はスポーツに金出してる場合なのか? そういう疑問は、当然でてきますよね。これを言うのはスポーツ研究者としては失格かもしれませんが(笑)。

このように、これまでほとんどのアマチュアスポーツが国に依存するだけだったことを考えると、僕にはサッカー協会の「儲け主義」が不健全だとは、まったく思えません。むしろ、市場競争に踏み込んだサッカー協会の経営をもっとポジティブに評価しつつ、良し悪し両面を含めてベンチマークすべきではないかと思います。

(下)に続く


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澤井和彦
江戸川大学社会学部経営社会学科スポーツビジネスコース准教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所客員研究員。大学・社会人ではアメリカンフットボールをプレー。92、93年の日本選手権ライスボウル出場。東大助手時代には御殿下カップで有名な御殿下記念館の管理者として学内のフットサル普及に一役買った。
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