なぜ日本人監督では100%の力を発揮できないのか?
2009年10月 1日

日本代表・オランダ遠征の数日後、元日本代表監督/現FC琉球総監督のフィリップ・トルシエ氏(54)にインタビューする機会に恵まれた。インタビュアーをお願いしたのは、エルゴラッソの発行元である株式会社スクワッドの山田泰社長(39)。インタビューの冒頭、トルシエ氏は唐突に中村俊輔の話題を切り出した。俊輔は今の代表に必要だと思うかい?
【俊輔を入れたチームにするのか、しないのか】
トルシエ ガーナ戦のあと、ネット上ではそのことについて喧々諤々の論争になってるんじゃない?
山田 たしかに、俊輔が入った方が良いのか、入らないチームの方が良いのか。まさに今、そのことでファンとメディアでは議論になっていますね。
トルシエ サッカーには、フィジカルの側面もテクニックの側面もあるし、戦術や戦略、メンタルの部分もあるけれど、どんな選手を選ぶのかは全体のバランスが一番良くなる選手を選ぶべきだ。今言ったような要素を全て含んだ上で、最高のバランスが取れたイレブンでスタメンを構成する。では、ベストのチームは今言った要素を全てクリアーすればいいのかというと違うかもしれない。
一つ言わなかったことがあって、それはチームを作るときのとても重要なポイント。それはポリティカルな側面。ソーシャルな側面。政治的、社会的な面も大切になってくるわけ。つまり、ジダンを入れないで、ベッカムを入れないで、ヒデを入れないで、俊輔を入れないで果たしてチームというのは作り得るのかということ。それは僕に言わせれば「ノー」だね。
こういう選手は本当は入れなくてもいいかもと思うかもしれないけれど、このチームで行くぞと言ったときに国民が支持してくれるチーム、みんなが期待してくれるようなチーム、いいチームだとみんなが言ってくれてポジティブな波が押し寄せてくるようなチームを作ることが監督としては大事なんだ。
俊輔を入れたチームにするのか、しないのかという議論に戻るなら、私は「イエス」と答える。なぜかというと、俊輔が入ることによって、これぞ代表チームというチームになるし、みんなの期待を一身に集めることができるチームになる、メディアも期待して取り上げてくれる。そういったチームになるためには、俊輔の体調がよほど悪いとか故障があるとかでない限り、入れた方がいいと思うね。
山田 僕も個人的には俊輔は入れた方がいいと思います。彼は2002年のあと、欧州に渡り、精神的にも肉体的にもチームに貢献できる選手になりました。
トルシエ 今の彼と2002年の彼を単純に比較することはできないよ。当時の彼はまだ若かったし、彼より前にベテランの選手がいて彼らは成熟した選手だったし、彼らの方がチームとしてもバランスが取れていた。
それぞれの世代の選手にはそれぞれの活躍の時期がある。2002年の俊輔は若い選手の象徴だったかも知れないけれど、あの段階では、W杯の代表メンバーに入る実力はなかった。だが彼は今、30歳になった。
【選手としてだけではなく、人間としてチームに貢献を】
山田 今回の遠征での中村俊輔の問題は、チーム内でのポリティカルな問題だと思いました。トルシエ監督は以前、特定の選手に頼るチームはいらないと、自身の腕にキャプテンマークを巻くパフォーマンスを見せたことがあります。
今の日本代表チームでは俊輔の存在感は限りなく大きいです。特に攻撃の際には俊輔のゲームメイクを経由することを意識しすぎて、チームとしても俊輔自身もベストのパフォーマンスが出せていないのではないでしょうか? 俊輔がチームのパーツの一つとなることが解決法になるのではと思うのですが。
トルシエ チームの中のリーダーは腕章を付ける必要はないんだ。リーダーというのは存在そのものに重きがあってカリスマ性もあるわけで、誰かがキャプテンマークを付けたからといってリーダーになれるわけではない。選手たちの間で、お互いの中で認められた人がリーダーになるわけだから。キャプテンマークは、ただ審判と交渉する役割の意味しかない。
俊輔には、あのポジションが確実に自分のものだなんて安心してもらっては困る。自分はそれに値するということを常に常に見せ続けていかなければいけないし、そうやって勝ち取っていかなければいけない。これまでの実績、経験でポジションを得ているようではいけない。
試合で使ってもらうためには100%の調子で臨まないといけないし、チームに対して選手としてだけではなく、人間としてチームに貢献できることを示さないといけない。それは自分が試合に出ているときだけリーダーであればいいというものではない。自分がピッチに立っていないときも、チームに対して、良い影響を与える存在でなければいけない。岡田監督も、俊輔のそういった役割を整理していく必要があると思う。

【日本人の監督は日本での経験しかない】
-- 岡田監督についてですが、トルシエ監督は以前、日本人が日本代表の監督をやるとその監督自身の100%の力を発揮できないのではないか、とおっしゃっていました。なぜ日本人監督では100%の力を発揮できないのでしょう?
トルシエ 簡単なことだよ。それは例えば、日本でぶどうを栽培してワインを作ろう、というのと同じことだ。フランスから苗を買ってきて日本の土地に植えて、どれだけ育て方や醸造の技術を身につけたとしてもどこかに足りないモノがある。それは経験。成功の体験や手痛い失敗、そういった経験を積み重ねないと分からないことが必ずある。そういった微妙なディティールの部分で差が出てくる。だから、サッカーに関しては外国人の監督の方が、いろいろと貢献できる点は多い。
日本人の監督は日本での経験しかない。外国での経験がない。そこで差が出てきてしまう。8割方はいいけれど、残りの2割で差が出てくる。岡田監督には外国でチームを指揮してきた経験がない、日本の選手も海外でプレーする経験を積んできている選手は2人か3人しかいない。となれば、世界を体で知った経験というのがどうしても不足してしまう。
【誰もがW杯という同じ方向を向いていたから成功できた】
山田 トルシエ監督のお仕事は、まさにぶどうを輸入してワインを作るお仕事だったと思います。トルシエ監督は、異なる文化の地にやってきたとき、文化同士の衝突を恐れず、その衝突をエネルギーに変えていきました。日本人の監督だと、そういった文化の衝突が生まれないことの弱さを感じます。
トルシエ 私は、私の持っているモノを選手に伝えていくのと同時に、サッカー協会の方々が私のやりたいことを理解して力を貸してくれたというのもあるし、サポーターの後押しもあった。そういった後押しがあったからこそ、日本で成功できたのだと思う。
2002年に自国でのW杯開催があり、社会的にもサッカーが盛り上がっていた。誰もがW杯開催という同じ方向を向いていた。だからこそ上手く行ったんだ。選手の世代的なことも含めて、あれだけ上手く行ったのは、あの時期だから、あの世代だからというのはあるね。
-- 当時と比べると、社会のサッカーに対する熱は下がっていますし、サッカー界も皆が同じ方向を向いているわけではありません。その中でトルシエ監督の頃のような結果を日本代表に期待するのは難しいことでしょうか?
トルシエ 今でも日本サッカーは前に進んでいると思うよ。10数年前、プロリーグが誕生すると人々はJリーグに熱狂し、そのおかげで98年のフランスW杯に初出場できた。2002年にW杯を開催することもできた。サッカーのブームがきて、私もそういった波に乗って成功することができた。
今はW杯も4回目ということで日本が参加することは当然という感じになってきた。サッカーの人気は落ち着いてきた。でも、日本のサッカーはまだしっかりと伸びている。当時はブームだったけれど、今は本当のサポーターが支えているし、本当にサッカーを理解しようとする人が試合に見に来るし、クラブを経営する人もサッカーを知って経営する人が増えてきた。ファンの人数は減ったとしても深くはなっていると思うし、日本のサッカーは徐々に経験を積みつつあると思うよ。
山田 ありがとうございました。今日、久々にトルシエ監督にお会いしてまだまだお若いなと感じました。これからまだ大きな仕事をしてゆかれると期待しています。
トルシエ 沖縄でおいしいものを食べて、美女に囲まれているからね(笑)。多くの人に期待され、その期待に応えなければと常に意識していることが若さを保っていられる秘訣かもしれない。
今は、沖縄にサッカーを根付かせるという仕事を長期的な視野に立って携わっている。これは今までとは違った取り組みだし、ぜひ成功させたいと思っている。私も、「エルゴラッソ」の成功を祈っているよ。今度はぜひ、フランス語版を作ってください(笑)。
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