【黄金世代】日本サッカー界は「心の教育を忘れた」【前】
2009年11月14日
今年9月に発売された元川悦子著「黄金世代」は、99年ワールドユース準優勝、00年シドニー五輪ベスト8、02年ワールドカップベスト16など輝かしい成績を残した日本の黄金世代の選手たちと、日本サッカーのその後を振り返った1冊だ。
あれから10年、日本サッカー界はどの世代に於いても彼らの残した結果を上回ることはできていない。当時以上の育成環境と素材が集まっているはずの今、なぜ日本サッカーは結果を出せないでいるのか。著者の元川悦子さんに話を聞いた。
【停滞した日本サッカーの状況に渇を入れたい】
--まずは、なぜ今、黄金世代を扱った本を書こうと思ったのでしょう。
元川 本のタイトルを見ると「黄金世代の礼賛本か」と思われる方も多いでしょうが、そうではありません。私は15年間日本サッカーの取材をしていて、最近の停滞感を危惧しています。何とか今の状況を変えられないかと真剣に考えています。「もっと強くなるためにはどうしたらいいだろう」とみんなが必死になっていた頃の情熱を取り戻すためには、当時を振り返ることが一番じゃないかなと。この本が停滞した日本サッカーの現状にカツを入れ、今の「まったり感」を変える一助になればいいと考え、自分の集大成という意味も込めて書きました。
当時の日本サッカー界は、代表を強くするためにみんなが一生懸命だったし、それなりに犠牲も払っていた。だから10年くらいで、あっという間にワールドカップで1勝できるチームになったのだと思います。最近はそういうことをみんなが忘れてしまったのかなと感じることが多い。彼ら黄金世代はその急上昇していく過程を知っている最後の世代なんです。彼らの後になると、W杯に出るとか五輪に出るというのが当たり前になって、そのわりに勝てていない。昔のことは知りませんと平気で言う選手がいる。そういう状況を見ていると、やはり「残さなくちゃいけないもの」があるのではと思うんですよね。
--今はもう黄金世代の全盛期を知らない人も多いでしょうね。今の若いファンでナイジェリアワールドユースの試合を見たことある人は少ないと思いますよ。現地の観客が興奮して試合後になだれ込んでくるくらい日本はいいサッカーをしていたというのに。
元川 伝説のチームですからね。キャプテン翼みたいな(笑)。そういうことを若い世代に伝えていくのも、我々の大切な仕事だと思います。実際、現日本代表の若手の中には、つい数年前の2006年ドイツワールドカップの予選のことも知らない選手がいます。内田(篤人)君に聞いてみても「昔のことはあまり分からない」と答えていましたし。香川(真司)くんに「初めて見たオリンピックはいつ?」と聞いた時も「シドニーです」と言われ、驚きました。28年ぶりに世界の壁を破ったアトランタのことを覚えていないのかと思うと、寂しくなりましたよね。彼らは20歳そこそこで、アトランタの頃はまだ小学校低学年ですから、年代的には仕方ないんですけど、でもみんなが憧れるトップトップの選手ですからね。そういう彼らに歴史を教えなかった周囲の大人にも責任があると思います。
私たちが10代から20代になる頃、日本サッカーにとってワールドカップは夢のまた夢でした。日本リーグには誰もお客さん来てなくてスタジアムには閑古鳥が鳴いていたわけです。それが突然、Jリーグがブームになって大きな注目を浴びるようになった。そういう過程を私たちは見ているので、今の代表チームにも熱いものを求めてしまう。だけど、選手たちも岡田監督もそういうものをあまり発信してくれないから、ギャップを感じてしまうところは大いにありますね。
【日本サッカー界は「心の教育を忘れた」】
元川 カズやゴンの世代は日本サッカーを背負って戦っていたし、涙も辛い経験も積み重ねている。普段から取材をしていても、シドニー五輪を経験している俊輔や遠藤の世代までは、そういう時代の空気を肌で感じていると思うんです。
彼らより若い選手たちは、そういう気迫や意気込みが薄く感じるし、話を聞いていても感情があまり表に出てこない。こちらが何か問いかけても反応がなく、「分かりません」としか言えない選手もいます。それは感情表現が下手なだけだったり、人見知りなだけなのかもしれないけれど、闘争心が表に出てこない選手はやっぱり最後のギリギリの勝負で勝てなかったりする。技術的には上手い彼らが試合で勝てないのは、メンタルの問題が非常に大きいのではないかと。そんなことを感じて、今の若い世代と黄金世代を比較してみたら、何か分かるんじゃないかと考えました。
--当時に比べれば今の方が環境的には恵まれている。技術的にも上手くなっている。だけど黄金世代の選手たちの方が、今の選手たちより勝負強く結果も残せたわけですよね。
元川 なぜそうなったのかは今も考えているんですけれど、最近思うのは、黄金世代より上の世代というのは、芝生のピッチや用具などの環境も揃っていなかったし、指導者もいない。「昭和」の根性論の中でやってきているから、技術的には下手でもガムシャラな感じがあるわけですよ。
ドーハの悲劇でギリギリのところでW杯出場を逃す経験をして、そこから日本協会も世界の情報を取り入れて、サッカー選手に必要な基礎的な技術などを幅広く共有するようになりました。先進的な指導システムが導入されて、技術面が飛躍的に向上したわけです。けれども、90年代後半まではまだ「昭和」的なやり方も残っていた。黄金世代の選手たちはまだ高校の部活で走らされているわけです。テクニックとメンタルの両者が最も高い位置で噛み合ったのが黄金世代の選手たちではないか。今はそんな分析をしています。
その下の世代の選手たちを見ると、技術はさらに伸びたかも知れませんが、人間教育の面が不十分で精神的に脆くなっているから、サッカー選手としての総合力は少し低いんじゃないかな。精神的な面と技術的な面との総合力が高いからこそ、黄金世代は世界2位という結果を出せたと私は考えます。黒田和生先生(元滝川一高・現神戸ユース監督)は「この10年間、日本サッカー界は心の教育を忘れた」とおっしゃっていたけれど、その部分が今の選手たちの問題点なんだと感じますね。
【当時の選手たちは「トルシエはいい監督だった」と言う】
--トルシエ監督の評価も当時と今とでは大きく変わりましたよね。
元川 当時は私も、選手にひどいことするし非人間的な扱いもするし、理不尽なことばかりで頭に来ていたんですけれど、後から振り返れば、日本人にないものを植え付けるため、彼には彼の狙いがあってやっていたということが分かってきました。
--だた、そういうのも現在進行形のときはなかなか見えにくいものですよね。
元川 トルシエの感情的な振る舞いが、いつも私たちの感情を逆撫でするという面もあったし、いつも誰に対してもケンカを売っているとんでもないヤツだというのが当時の認識でしたからね。だけど、あそこまで異物としての存在感があった人間って、日本のサッカー界にはいなくて、異物があるとアレルギー反応が起こるんだけど、その刺激がいい方向になって抗体ができたりワクチンができたりもするわけです。
結果的には、彼がもたらしたものは大きかった。だから今、当時の選手たちに話を聞くと「トルシエはいい監督だった」と言うわけですよ。選手を公平に見てチャンスを与えるという意味では、今の岡田監督よりずっとフェアにやっているように思えてきますよね。
トルシエは面と向かって議論して白黒はっきりさせようというタイプで、日本人のように影でこそこそ悪口を言って噂を流すようなことは好きじゃなかった。だから選手でも戸田や松田、森岡のような、はっきりと自分を主張する選手を好みました。逆に当時の俊輔なんかを見ていると「ポジションのことで不満があるなら、どうして直接、トルシエと話し合おうとしないんだろうか…」ともどかしく思うこともありました。今になって考えると、「そのくらい強い自分を持っている選手でないと世界では戦えない」という彼のメッセージだったのかなと思いますね。
(インタビュー・構成:岡田康宏)

「黄金世代 -99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年-」
目次
1章 黄金世代誕生の背景と軌跡
1979年──黄金世代が生まれた時代
遠藤保仁に見る、黄金世代の成長過程
1993年──Jリーグ発足とワールドカップ招致活動
10代で積むべき国際経験
ワールドユースベスト8の壁を突破しろ!
1998年──小野伸二のW杯出場が仲間に与えた刺激
・赤鬼・トルシエ流革命
1999年──ワールドユースで世界を驚かせた日本
地道な・人間教育・がタフな選手を作る
2000年──シドニー五輪を経て海外挑戦へ
海外で成功するための条件
2002年──日韓ワールドカップの成果
誤算が続いたジーコジャパンの4年間
2006年──ドイツワールドカップ惨敗の衝撃
オシム体制以降──遅れてきた黄金世代たち
2章 黄金世代証言集
小笠原満男(鹿島アントラーズ)
南 雄太(柏レイソル)
中田浩二(鹿島アントラーズ)
藤田健(ヴァンフォーレ甲府)
高田保則(ザスパ草津)
播戸竜二(ガンバ大阪)
氏家英行(tonan前橋)
市川大祐(清水エスパルス)
手島和希(京都サンガF.C.)
大島秀夫(アルビレックス新潟)
石川竜也(モンテディオ山形)
酒井友之(藤枝MYFC)
羽生直剛(FC東京)
稲本潤一(スタッド・レンヌ)
遠藤保仁(ガンバ大阪)
本山雅志(鹿島アントラーズ)
加地 亮(ガンバ大阪)
永井雄一郎(清水エスパルス)
高原直泰(浦和レッドダイヤモンズ )
小野伸二(VfLボーフム)
3章 黄金世代を超えるために
黄金世代から10年、選手はどう変わったか?
年代別日本代表と世界大会
黄金世代以降の年代別代表の実績・アテネ世代
黄金世代以降の年代別代表の実績・北京世代
黄金世代以降の年代別代表の実績・ロンドン世代
個性のない選手が増えたのはなぜ?
高校サッカーとJリーグユースの「過去・現在」
日本サッカー界を取り巻く環境の変化
2005年宣言の実現可能性は?
日本サッカーを世界レベルに上げるために
山本昌邦(アテネ五輪代表監督)
反町康治(北京五輪代表監督)
上野山信行(Jリーグ技術委員長)
黒田和生(ヴィッセル神戸ユース監督)
山口隆文(FC東京U─15むさし監督)
フィリップ・トルシエ(元日本代表監督)
関連記事
【黄金世代】日本サッカー協会は現実を見せていない【後】[09年11月14日]なぜ世代が上がるにつれてユース出身者の割合が落ちるのか[09年08月09日]
岡田監督、4月の強化合宿はU-20世代で実施[09年04月01日]




このエントリーのはてなブックマーク (-)についたコメント

サッカー専門新聞



