「PLANETS」編集長・宇野常寛インタビュー
岡田康宏(サポティスタ)
「PLANETS」は宇野常寛主催の企画ユニット「第二次惑星開発委員会」が発行するミニコミ誌だ。初期「Quick Japan」的な、ごった煮だがエネルギーのある雑誌で、2005年12月に第1号が発行され今年2月9日に第4号が発売された。評論誌、文芸誌が全く売れないといわれる中、「PLANETS」は評論のミニコミとしては異例の販売部数を誇り、数字的にはもう一般文芸誌に手が届くところまで行っている。
今回は、「第二次惑星開発委員会」の主宰であり「PLANETS」の編集長である宇野常寛氏に話を聞いた。
【あらゆる文化を座標軸に乗せてマッピングする】
「PLANETS」がどういう雑誌かというと、サブカルチャー総合誌と名乗っていたりするんですけど、若者文化についてはなんでも扱うような雑誌です。僕自身、小説や映画、漫画やアニメ、舞台も見ますし、物語メディアが好きなので、そこがメインで。参加メンバーに得意分野不得意分野があるので、スポーツ、お笑いの記事はあまりないんですけど、中には音楽や都市論も扱っていますし、幅広くやっていけると思っています。あんまり拡散してもターゲットがぼやけるので、今は国内カルチャーを中心にすえていきますけど、今後は海外にも目を向けていきたいですね。
2号に1回くらい「惑星開発マップ」という地図を載せているんですよ。「自己満足」と「他者志向」、「成熟への背伸び」と「幼児的居直り」の2つの軸があって、あらゆる文化を座標軸に乗せてマッピングするというのをやっているんです。そこでは、『涼宮ハルヒの憂鬱』と小泉純一郎、リリー・フランキーと嫌韓厨、桜庭一樹とチャットモンチー、物語名と人名、政治家とミュージシャン、ありとあらゆるものが同じマップの平面上に並んでいる。これらは一見、関係ない存在に見えるんですが、実はある問題意識、テーマ設定を導入することで、同じ基準で比較検討できるんです。
例えば、2年くらい前に書いたマップだと、小泉純一郎と『デスノート』というのはすごく近い位置にあるわけです。これは「PLANETS」やSFマガジンでの評論の中では、もちろん理屈で説明してあるんですけど、それを読まなくても感覚的に分かりますよね。周囲を「愚民どもめ!」と見下しながら、自身もどこか子供じみたところがある。強いものこそ正義と言いながら、自分も特定のゲームに強いだけで、万能じゃない。他にも『ドラゴン桜』とか『女王の教室』とかっていうのは結構近い位置なんですね。それとは対極にあるのが、『エヴァンゲリオン』っぽいもの。『涼宮ハルヒの憂鬱』とか、作家の滝本竜彦さんとか。一見、繊細なようでいて実はものすごくマッチョな所有欲に満ちていて、そのために引きこもる自意識系ですね。
この例だと「自分の人生が楽しくないのは自己責任だ。だから自分で何とかしなきゃいけないんだ」というのが小泉純一郎や夜神月で「全部が他人が悪いんだ」になると、赤木智弘さん(「若者を見殺しにする国」)とか滝本竜彦さん(「NHKにようこそ」)なんかが近いまあ、僕はどっちも批判しているんですが、とりあえずは、こういう問題意識をもてば、一見つながらないようなものをつなげることができるし、そうしてはじめて見えてくるものもあるということをまずは訴えたいわけです。
たとえば、アニメが好きで、その魅力について考えてみたいと思ったとき、アニメの世界の中だけで思考していると見落とすものが多いんです。それがスポーツだったり、音楽だったり政治だったり文学だったり、そういった横のジャンルと比べることによって、はじめて夜神月と小泉純一郎の近さが分かる。そして、それが結構『デスノート』という物語の本質に近い部分を担っていたりする。そういった評論というのをやりたいんですよね。
【一見バラバラなものだけど、そこに普遍的な問題が隠れている】
例えば「PLANETS」の2号を読むと、『野ブタ。をプロデュース』の脚本を書いた木皿泉さんと、三島賞という純文学の賞を取った鹿島田真希さんと、平成仮面ライダーシリーズのプロデューサーのインタビューとが一緒に載っている。『野ブタ。をプロデュース』のファンは、亀梨くんとか山Pが好きなジャニーズファンや、学園モノなので平成生まれの10代のファンが多いし、木皿泉さんのファンはスローライフドラマの『すいか』で向田邦子賞を取って有名になった人なので、20代、30代のOLさんが多い。鹿島田さんのファンは、ガチガチの文学ファンが多いし、オタク文化特集として仮面ライダーもある。そういったバラバラの趣味趣向を持った人が「PLANETS」を手にとって、まずはそこで起こる異文化交流がおもしろい。
さらにここからがポイントなんですけど、木皿泉と鹿島田真希と平成仮面ライダーシリーズは、丁寧に分析すれば実は同じようなテーマ、同じような問題意識を作品の中で扱っている。この時代にこの作品が生まれたり理由として、同じような要素があったりするわけです。一見バラバラなものだけど、そこに普遍的な問題が隠れている。それが異文化交流とか評論とかのおもしろさであり、それを扱っているのが「PLANETS」なんですね。だから、「PLANETS」の読者は、これまで知らなかったジャンル、知らなかった作品のおもしろさに気づく人が多いんですよ。
【大事なのは他のジャンルに対して柔軟であること】
今、そういうジャンル横断的なメディアは減っていて、それは世の中の流れ的に仕方のないことなんですよ。消費社会が発展していくと、それぞれが自分の所属する文化圏に閉じこもり、他の文化圏には干渉しない、その方がノイズも少ないし幸せだという、いわゆる「島宇宙化」は進んでいくんです。誤解しないで欲しいんですが、僕は島宇宙化はダメだ、前の時代に戻れ」なんて考えたことはない。島宇宙化自体は、まあいろいろ問題もあるけれど総合的には良いことだと思うんですよ。ただ、それが良いことだからこそ、そのデメリットを減らすような補助システムを作っておきたい。そのために批評のようなメタレベルを扱うジャンルが島宇宙化を撹乱するようなシステムを担うのがいいと思う。人間、趣味趣向が違うので、特定のジャンルに所属するのは悪いことではないんです。誰だって何らかの島宇宙に所属しているんだから、そこにいいも悪いもない。ただ、大事なのは他のジャンルに対して柔軟であることだと思うんですよ。
オタク文化が好きな人間は、ジャニーズのドラマなんか絶対に認めないとか。携帯小説や昔のトレンディドラマとかが好きな人間は、アニメを絶対に認めないとか、そういう偏狭なセクショナリズムにいかないで、他の分野、他の文化圏、クラスの他のグループの価値観や想像力を必要に応じて受け入れる、想像力を開いておくということが世の中をおもしろく生きるコツなのかなと思うわけですね。特にこれから送り手の側に回ろうという人、物書きになりたい、編集になりたい、プロデューサーになりたいという人は、そこをチェックしておかないと苦戦すると思いますね。
例えば、東浩紀さんを中心とするサブカルチャー系論壇の中では数年前から「セカイ系」という問題がクローズアップされているんですけど、実はその「セカイ系」問題に対して、最も有効なアプローチをしているのは、宮藤官九郎の地名シリーズと呼ばれる一連のシリーズ、『木更津キャッツアイ』とか『池袋ウエストゲートパーク』だと僕は言っているんですね。ただ「セカイ系」という言葉は、ポストエヴァンゲリオン症候群と呼ばれるくらいなので、90年代後半のオタク文化が好きな人たちと親和性が高く、それに対して、大人計画+ジャニーズという全く違う文化圏の作品が最もおもしろいアプローチをしていると言うと、「セカイ系」を好きな人たちはものすごく怒るわけなんですよ。だけど、怒る前に見てくれと。自分はある文化圏の人間だから、他の文化圏の人間は敵だ。そういう考えは個人の自意識の問題であって、そこで敵の文化を憎んだところで得られるものは何もないわけですよ。それはモノを考える上で、基本中の基本中の基本中の基本なんだけど、そこが今、完全に崩壊しちゃってるんですよね。「〜文化の敵/味方」みたいな思考をしている時点でもうどうしようもないですよ。
どんな世の中になっても、自分の人生が上手く行かないからといって、在日外国人を差別したり、身体障害者や女性を差別したりだとか、そういう人というのは統計的に考えれば絶対にいなくならない。それと同じことで、そういう偏狭な自意識を持った人というのは必ず出てきます。現に僕なんかもクドカン褒めただけで「オタクの敵」扱いですからね。あれだけ『コードギアス』や『(平成)仮面ライダーシリーズ』を持ち上げても、セカイ系的な自己正当化ロジックを認めないだけで敵認定です(笑)。鹿島田真希や飛浩隆のロングインタビューを身銭切って刊行していても、テレビドラマ批評を行っただけで「あいつはメジャー文化の手先」みたいな罵られ方をする。書いたことがないことまで書いたことにされてしまう。だからこそ、そういった「(自分の文化圏=島宇宙にとって)敵か味方か」みたいなつまらないことを考えている連中を、正しく切り捨てて、地道にメディアを維持していくということが大事なんだと思います。とくにこれから、カルチャー的なものに携わっていく人間にはそこに気をつけてもらいたいし、僕自身、まだ20代でこういった文化産業に入りたての人間なので、そこを強く意識してやっていきたいと思っています。
「PLANETS Vol.4 」
2008年2月9日発売
A5サイズ:280P:1500円
【巻頭インタビュー】
東浩紀の功罪 戦慄の六万字インタビュー!
川上未映子「意識 イン 身体、そして――」
前田司郎「働かないイラクに行かない考えすぎない」
【特集 「文学」なんて、知らない】
大森望インタビュー 「メッタ切り」後 の文学
前田塁:市川真人インタビュー <文学>は成立するか?
■2010年代の想像力たち
漫画家・シギサワカヤ 映画監督・岡太地
■巻末鼎談 サブ・カルチャー最終戦争リターンズ2008
中森明夫×宇野常寛×更科修一郎
など





















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